2024年、日本の中古車輸出市場では驚くべき変化が起きています。輸出台数が爆発的に増えた国もあれば、厳しい市場環境に直面して減少に転じた国も。今回の記事では、最新データに基づき、南米や大洋州で急成長を遂げる市場と、地政学や規制に苦しむ市場の対比をお届けします。
成長市場の躍進:南米と大洋州の台頭
チリ:南米の新たな中古車王国へ
南米の市場で今、最も注目を集めているのがチリです。9月には3,035台だった日本からの中古車輸出台数が、10月には7,825台へと158%もの急成長を遂げました。
何がチリ市場を突き動かしているのか?
チリ経済は現在、安定的なGDP成長率(4.2%)を維持し、中間層の拡大(6.5%)が急速に進んでいます。中間所得層の需要が、手頃な価格で耐久性のある日本製中古車に集中しているのです。
SUVやピックアップトラックといった多用途車両が人気を集めています。特に、トヨタ・ハイラックスやスバル・フォレスターといった車種がディーラーから引っ張りだこ。輸入車の年齢構成5-10年が68% , 3-5年が22%, 新古車が10%で構成されています。
さらに、円安による価格競争力の向上が、現地ディーラーの仕入れを後押ししました。
成長の裏付けデータ
OECDの報告によると、チリでは中間層が毎年6.5%増加。加えて、現地紙「El Mercurio」によれば、2024年は自動車関連の投資が前年比12.7%増加する見通しです。
次なるステップは?
チリ市場は今後も成長が続くと予想されており、特にハイブリッド車やEVへの移行が加速すると見られます。2025年までに輸出台数がさらに20%以上成長する可能性を秘めています。
ガイアナ:新興市場がもたらす驚きの成長ストーリー
次に注目すべきはガイアナ。このカリブ地域の国が、驚異的な114%の成長率を記録しました。9月の輸出台数1,280台から、10月には2,745台へと急増しています。
なぜガイアナ市場が急成長しているのか?
2019年の油田発見以来、ガイアナ経済は大きく変貌を遂げています。2024年のGDP成長率は**6.8%**に達し、インフラ投資も前年比12.4%増加。
CARICOM(カリブ共同体)との貿易協定が物流を効率化し、輸送コストを抑えています。
中古車の市場シェアはなんと82%。商用車両が輸入の約半分を占め、トヨタ・ランドクルーザーや日産ナバラといった高耐久性車両が圧倒的な人気を誇ります。
ガイアナの未来図
インフラ需要の拡大に伴い、ピックアップトラックや多目的SUVの需要がさらに高まる見込みです。2025年までには年間20-25%の成長が期待されています。
ニュージーランド:持続可能性が支える新時代の市場
ニュージーランドでは、環境問題への意識の高まりが市場を動かしています。9月の3,250台から10月の6,520台へと101%増加。持続可能性が中心となった市場の変化は、他国にとっても示唆的です。
持続可能性を中心とした市場の特性
ハイブリッド車が42%、EVが18%を占める市場構造。従来型内燃機関車も依然40%のシェアを持っていますが、徐々にシフトが進んでいます。
環境規制を受け、燃費効率の良い車両やEVが需要を牽引しています。特にトヨタ・プリウスや三菱アウトランダーPHEVがトップセラーに。
今後の展望
ニュージーランド政府の環境政策はさらなる持続可能性を推進する方向に向かっており、2025年までにEVやハイブリッド車のシェアは50%以上になると予想されています。
縮小市場:課題が山積する市場の現実
ロシア:制裁の壁に阻まれる市場の厳しい現実
ロシア市場は、2024年9月の21,801台から10月には18,525台へと15%の減少を記録しました。この減少は、国際的な制裁、ルーブル安、そして国内自動車産業の代替生産能力向上が複合的に影響しています。これらの要因が日本製中古車の市場シェアを圧迫し、中国製車両や国内車両の台頭を招いています。
減少の背景を紐解く:主な要因と根拠
1. 制裁の影響
ロシアは、ウクライナ情勢を背景にした国際的な制裁により、輸入自動車市場に深刻な影響を受けています。
輸入制限の強化:
制裁措置により、日本を含む外国製車両の輸入が大幅に制限されています。
自動車輸入制限指数は76%に達しており、多くの輸出業者がロシア市場への参入を断念しています。
根拠: ロシア連邦税関の2024年10月報告書には、制裁対象国からの輸入が前年同期比で42%減少したと記載されています。
代替輸入(Parallel Import)の限界:
ロシア政府は「代替輸入」(いわゆる並行輸入)を奨励していますが、部品不足や物流の課題が輸入拡大を妨げています。
並行輸入での日本車の取り扱いは一部にとどまり、市場全体でのシェアは縮小しています。
2. ルーブル安の影響
ロシアの通貨ルーブルは、2024年に入っても不安定な状態が続き、購買力を大きく低下させています。
消費者の購買力低下:
ルーブルの価値下落により、輸入車の価格が高騰。これが消費者の購買意欲を大きく削いでいます。
根拠: ロシア中央銀行のデータによると、2024年9月から10月にかけてルーブルの対ドル価値は約12%下落しました。
現地価格の高騰:
日本からの中古車輸入コストが増加し、ロシア市場での価格競争力が低下。特に中低価格帯の車両で、中国製車両にシェアを奪われています。
3. 国内自動車生産と中国製車両の台頭
国内代替生産の増加:
ロシア政府は国内自動車産業の拡大を推進。新しい工場の設立や既存施設の生産能力増強が進行しています。
国内生産車両の市場シェアは2024年10月時点で前年同期比12%増加しています。
根拠: ロシア産業貿易省の報告によると、2024年までに国内生産車両のシェアを50%以上に引き上げる計画が進行中。
中国製車両の急増:
制裁の影響を受けない中国製車両が、ロシア市場で急速にシェアを拡大。
中国製車両は2024年10月時点で市場シェア24%を占め、日本製車両を凌駕する勢いです。
根拠: 地元紙「Коммерсантъ(コメルサント)」の報告では、2024年に中国製車両の輸入が前年比60%増加したとされています。
輸出台数減少が示す市場の変容
ロシア市場におけるこれらの変化は、日本の輸出業者にとって厳しい現実を浮き彫りにしています。輸出台数が減少した理由は、単なる経済的要因にとどまらず、地政学的な影響や市場構造の変化に深く根ざしています。
オーストラリア:規制強化がもたらす市場再編の現実
オーストラリア市場では、2024年9月の輸出台数1,939台から10月には1,466台へと24%の減少を記録しました。この減少は、日本製中古車の環境基準への適合率や、新車市場の競争激化と密接に関係しています。
減少の主な背景と根拠
1. 環境基準の厳格化
オーストラリア政府は、カーボンニュートラル政策の一環として、自動車の環境基準を厳格化しています。
新基準の影響:
日本製中古車の**新基準適合率は68%**にとどまり、多くの輸出車両が基準を満たせない状況です。
他国製中古車の適合率は52%とさらに低いため、厳格化された基準が全体の輸入量を減少させています。
具体的な規制内容:
排ガス規制(Euro 6に相当する基準)。
車両年式に関する厳格な制限(10年以上の車両は原則不可)。
エネルギー効率基準の強化。
根拠:
オーストラリア運輸省が発表した2024年版「Vehicle Emissions Reduction Report」によると、規制強化の結果、2023年と比較して2024年の中古車輸入量が20%以上減少しています。
2. 新車市場の競争激化
中古車市場を圧迫しているもう一つの要因は、新車市場での割引キャンペーンの拡大です。
新車市場の状況:
新車ディーラーはEV(電気自動車)やハイブリッド車を対象に、政府の補助金と連携した大規模なプロモーションを展開しています。
例として、テスラやトヨタのハイブリッド車が補助金適用後に中古車価格と競合する水準で販売されています。
中古車市場への影響:
中古車需要が縮小し、輸入ディーラーの発注が減少。
特に10年以上経過した低価格帯の車両が影響を受けています。
根拠:
オーストラリア自動車工業会(FCAI)の2024年報告書では、補助金を受けた新車の販売台数が前年同期比で15%増加したと報じられています。
輸出業者が直面する課題
1. 高騰する輸送コスト
オーストラリア向けの輸送コストは2024年に上昇傾向を示しており、輸出業者にとって利益率が低下しています。さらに、新基準適合車両を厳選する必要があるため、仕入れコストも増加。
2. 中古車のイメージ低下
環境意識が高いオーストラリア市場では、中古車全体に対する需要が低下。日本製中古車が信頼される一方で、古いモデルへの需要が減少しています。
キプロス:観光シーズン終了後に直面する需要減退の現実
地中海の観光大国、キプロス。2024年9月には日本からの中古車輸出台数が2,030台を記録しましたが、10月には1,200台へと41%の減少を見せました。この劇的な減少の背景には、観光シーズン終了後の需要変動と、国内経済の厳しい現実が影響しています。
減少の要因を紐解く
1. 季節的需要の変動
キプロスは観光業が経済の主要産業であり、観光シーズン中にはレンタカー需要が大幅に増加します。その結果、中古車の輸入台数も増加するのが通常です。
しかし、観光シーズンが8月で終了すると、需要は一気に減退。
レンタカー会社はシーズン中に車両を補充するため9月初旬までに多くの車を輸入しますが、9月後半以降は新規購入を控える傾向があります。
地元住民による購買活動も、観光シーズン直後に一時的に活発化するものの、10月には落ち着きを見せます。
根拠:
キプロス観光局が発表した「観光シーズン後の消費動向レポート」では、観光シーズン終了後に地元住民の購買活動が減少する傾向が明記されています。
「Cyprus Mail」紙の2024年9月の記事でも、観光需要の影響が中古車市場に及ぼす季節的な変動が指摘されています。
2. 経済状況の影響
キプロス経済は成長基調にありますが、依然として消費者の購買力には限りがあります。
欧州経済機関(EEA)の2024年レポートによると、キプロスのGDP成長率は3%未満と緩やかで、購買力が限られていることが示されています。
特に観光シーズン外では高額商品の購入が控えられる傾向が強く、中古車市場もその影響を大きく受けています。
さらに、物価上昇(特にエネルギー価格)も地元の消費活動にブレーキをかけています。これにより、輸入中古車の販売が減少し、ディーラーの仕入れ意欲が低下しました。
キプロス市場のデータで見る現実
観光業と経済の結びつき: キプロス観光局の統計では、観光業がGDPの約13%を占め、直接的な影響を与えています。観光シーズン中におけるレンタカー需要の高まりが、輸入車台数の増加に寄与している一方で、シーズン後の需要低迷が市場全体の減少に直結しています。
中古車需要の減少: 現地紙「Cyprus Mail」の2024年9月の記事によれば、レンタカー会社の輸入需要がピークを過ぎた後、地元市場での消費が低調となり、需要が縮小したことが報じられています。
国名 | Country name | 9月 | 10月 | 増減割合 |
アラブ首長国連邦 | UAE | 16,577 | 22,920 | 38% |
ロシア | RUSSIA | 21,801 | 18,525 | -15% |
モンゴル | Mongolia | 7,919 | 9,883 | 25% |
チリ | CHILE | 3,035 | 7,825 | 158% |
タンザニア | Tanzania | 5,772 | 7,052 | 22% |
ニュージーランド | NEW ZEALAND | 3,250 | 6,520 | 101% |
ケニア | KENYA | 5,543 | 5,471 | -1% |
南アフリカ共和国 | SOUTH AFRICA | 4,428 | 4,971 | 12% |
タイ | Thailand | 2,914 | 4,670 | 60% |
フィリピン | PHILIPPINE | 3,096 | 3,621 | 17% |
パキスタン | Pakistan | 2,722 | 3,524 | 29% |
マレーシア | MALYSIA | 1,979 | 3,066 | 55% |
ウガンダ | Uganda | 3,428 | 3,056 | -11% |
ガイアナ | Guyana | 1,280 | 2,745 | 114% |
ミャンマー | Myanmar | 1,767 | 2,558 | 45% |
ジャマイカ | JAMAICA | 1,886 | 2,421 | 28% |
ナイジェリア | Nigeria | 1,480 | 2,092 | 41% |
英国 | United Kingdom | 1,743 | 2,001 | 15% |
コンゴ民主共和国 | Democratic Republic of the Congo | 1,421 | 1,946 | 37% |
アメリカ合衆国 | United states of america | 1,475 | 1,523 | 3% |
バングラデシュ | BANGLADESH | 1,172 | 1,472 | 26% |
オーストラリア | AUSTRALIA | 1,939 | 1,466 | -24% |
ザンビア | Zambia | 1,584 | 1,442 | -9% |
ジョージア | Georgia | 778 | 1,319 | 70% |
アイルランド | Ireland | 879 | 1,253 | 43% |
ガーナ | Ghana | 878 | 1,240 | 41% |
キプロス | CYPLUS | 2,030 | 1,200 | -41% |
モーリシャス | Mauritius | 876 | 1,188 | 36% |
モザンビーク | Mozambique | 846 | 1,181 | 40% |
大韓民国 | Republic of Korea | 1,226 | 1,152 | -6% |
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